早すぎる旅立ちにご冥福を

昨日でまとめた人生ログ1692週目の「ミカンは腐らずに潰される」で、ブログに遺言を残して、自宅の28階から飛び降りた高校生の自殺を言及した。実はそのニュースを目にした時、頭の中では真っ先にこの短編が浮かんできた。


コメント機能で冒頭と真ん中の少しだけ訳してみた。
挫折したorz
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これはSALLYが2008年3月号の挑戦者で発表した作品で、もうすぐ最終回を迎える『日日美好』の第18話「価値」。
『日日美好(日々ステキ)』は2006年8月から挑戦者月刊で始まった連載で、現在は24話まで発表。「死神」という共通キャラクターがいるものの、基本はオムニバス形式。毎回「誰かが死ぬ」のがポイント*1。中盤から共通キャラクターの死神コンビの話に重心を置く話が増えたが、来たる最終回ではまた日常に戻って終わる予定。ちなみに今までの連載はすべてここで読める
キャッチコピーは「人生はいつか終わる、だから日々がステキ」
第18話「価値」の内容だが——成績が良くなければ入隊テストさえ受けられない、伝統のある儀仗隊が有名な名門女子高*2。そこへ入学した女の子が、儀仗隊に憧れを抱きつつも、自分の成績がそんなに良くないから入れないのだろうと半端諦め。
彼女は付き合ってる男の子と、登校カバンを交換するほどの仲良し。男の子は同じく有名校に入れたけれど、成績が良くならない。学校では成績や儀仗隊の話題で、いつもなんだか劣等感を感じてしまう彼女にとって、塾で彼との会話の方がずっと楽しい。
すぐ他人と比べたがる親や、勉強してないと言いながら好成績を取るクラスメートに敵意を抱く女の子だが、友達の何気ない一言で、ふっと自分の見方を切り替えることができた。
やっと劣等感抜きで自分と他人が見れて、いつもと少し違う彼女は男の子と電話したら、彼の方には少し違和感を感じた。2人は他愛のないセリフを交わし、また今度電話するよと女の子の気遣いに、男の子は心ない返事をして電話を切った。彼女の登校カバンをしょったまま、彼はビルから飛び降りた。
この話を「価値」と題し、また15ページにチラリとカフカの『変身』をセリフに入れるのが、絵柄以外のSALLYの独特なセンスが滲んでくる。『日日美好』では台湾の社会現象を多く触れるか、結論がはっきりとする結末を、あえて避けるようにしてきた。わざと話に空白部分を多く残すことで、逆に考えさせられる狙いだと思う。
フィクションの中にある、高校生のあっけないほどの死。そしてつい先日、フィクションではない現実の中に起きた高校生の飛び降り。最後は、先日のニュースを受けて浮上したこの作品に、新しくつけられたコメントを訳してみる(青いシール)

私が通ってた名門中学校は、1年おきに校舎の屋上から生徒が飛び降りる。まるでスイカのよう…いま思えば、一番悲しかったのは、それがおかしいと誰も思っていないことだ……

陳腐な言い方だけど、嘘のようで本当の話。そして、よくある話。

*1:いろいろあって、結局全く登場していない人が死ぬ話や、冒頭ですでに誰かが死亡し、その死にまつわる話も。

*2:作品内では校名を明かしていないが、実在の「臺北市立第一女子高級中學」がモデル。