台湾の特撮―太空戰士(1984)

徐々に自分なりのペースを取り戻そうと思うので、せっぱ詰まる時にこそブログに長文を書こう(天の声:やめろ!やめるんだバカ!)

さて、久しぶりに台湾サブカルの話をしよう。

80年代中期の台湾では、ビデオデッキが急速に普及化したことで、レンタルビデオ屋が大繁盛。データによると、1982年には八分の一の家庭がビデオデッキを所有し(全国推定50万台)、レンタルビデオ屋が約2000軒強。1984年末には全国6000軒にも成長し、1986年の全盛期では8000軒以上ものぼる*1。版権無視の海賊版アメリカ映画、日本番組の録画テープ中心のラインナップで、当時台湾のテレビチャンネルは三つしかなく*2レンタルビデオ屋は子供にとって、まさに未知の世界をたくさん詰め込んだ宝庫。70年代生まれの台湾の日本アニメや特撮ファンは、大半この時期でその生地が作られたと思われる。

中には「人形卡通」と呼ばれる特撮ヒーローものが、子供心に強く印象を残した。なぜならば、そんなものはテレビで見たことがないから。ウルトラマン仮面ライダー戦隊シリーズなどはすべて放送順番を構いなく、棚に並べられていた*3。その影響で、海賊版怪獣図鑑やライダーカードが売れ、似も似つかないおもちゃも売れた。特撮ヒーローは、番組としてテレビ放映もしていないのに密かにブーム。

1984年、仮面ライダーシリーズは1月にスペシャル『10号誕生!仮面ライダー全員集合!!』を放映し、戦隊シリーズでは八代目の『超電子バイオマン』が登場。1958年の『月光仮面』から数えてくると、日本のテレビ特撮ヒーロー史はちょうど26年目に突入するところだった。そこで台湾のテレビ局も、どうやらやっとこの静かに流れる日本特撮ヒーローものブームに気付き、動き出した*4。そこで作られた記念すべきの第一作は、『太空戰士(スペースウォーリアズ)』という名の戦隊モノだった。

『太空戰士』は1984年7月16日から1986年8月2日まで華視で放送され、全112話の番組*5。超科学を有し、全宇宙を統治する野望を持つ黒帝星(ブラックガイザー星)の帝王・宇宙鄢帝は、次々とほかの惑星を侵略し、征服してきた。ついに、彼は美しい地球も狙ってきた。右腕である黒魔神の率いる黒帝軍団を地球に送り込み、破壊工作をしようとした。その宇宙鄢帝に対抗する、多くの惑星を束ねた維尼坦星(ヴィニダ星)政府は、宇宙を救うために、精鋭の戦士を集めて「太空戰士連盟」を成立した。そして連盟の中でもっとも強い三人の戦士―金龍(黄)、金虎(黒)、金鳳(ピンク)は、地球を守るという任務を果たすべく、身を張って黒魔神と黒帝軍団と戦う、というお話。*6

最初の10話は平日夜8:00〜9:00の一時間番組で、すごいゴールデンタイムに流してた。私も初回放送をリアルタイムで見て感動した記憶がある。その後放送時間は土曜日昼12:45に移り、尺も30分になった。だけど毎日一時間から週一回30分放送になっても、子供からの支持があって、全国で握手会を開催するほど人気だったそうだ。しかし、初期から『スターウォーズ』や日本の戦隊シリーズの画面、音楽、効果音などの無断流用、後期では明らかに日本市販のおもちゃを改造して作った武器とかも目立ち、高年齢層の視聴者(特に60年代生まれのSFや特撮マニア)の顰蹙を買った。

やがて四人目の戦士金鷹(緑)も登場し、かなり本格な展開が期待されていた。でも放映開始一年あまり、物語は突然急転直下。黒帝軍団の健闘(?)で四人がまさかの大怪我を負ってしまい、そして危機一髪で彼らを救ったのは、さらに強い力を持った太空戰士―金鯊(緑)、金豹(黒)、金燕(赤)だった!

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七人の大所帯になると思いきや、金龍、金虎、金鳳、金鷹があっさり退場。まあデザインコンセプトも全く違うし、しょうがないことと言ってもしょうがない。ただ「敵に負けて主役(世代)交代」は、たぶん日本のヒーロー番組はちょっと考えられない。また、ここから物語もかなりおかしくなってきた。維尼坦星が宇宙黒帝に襲われて爆発し、爆発前に辛うじて逃げ出した戦士たちは、宇宙鄢帝に対抗し続ける秘密基地を作り、金鯊たちは地球の平和を守るためやってきた…

なんか急に夢がなくなった話だね、と思うのはまだ早い。そこからまた放映が続き、今度はなんと地球が黒帝軍団に乗っ取られた!という展開に、何を言えばいいんだろう…ン…宇宙鄢帝って強いな。で、乗っ取られた地球で黒帝軍団と戦う太空戰士はこちら。

名前は邁克(マイケル/黒)、娣娜(ティナ/ピンク)、安蒞拉(アンジェラ/紫)、布魯斯(ブルース/青)、もう命名系統からも違う。人気が落ちたためのテコ入れ対策か、おもちゃとグッズを売るための策略か分からないが、とにかく物語は崩壊した。私は金龍たちの戦いの途中、怪人のしょぼさでリタイアしていたため、資料を見る前にこの四人の存在さえ知らなかった。有志が集めた資料によると、放送終了前にはまた一回世代交代があり、終極戦士・太陽戰神阿波羅(究極戦士・太陽戦士アポロ)が邁克たちの代わりに黒帝軍団と戦ったという。話は現在誰も覚えていないが、写真だけはある。


初代の三人と並ぶと絶対同じ番組のキャラクターだと思わない。

とにかく悪が勝ち続ける変わった番組だった。30組の戦隊*8を作り続けてきて、「正義とは?」を考え続けてきた日本戦隊シリーズに対し、台湾はこの『太空戰士』一作で「正義不在」という結論に至った…いろんな意味で台湾っぽかった。

『太空戰士』放送終了の1986年前後、特撮ヒーローものを求める子供はほとんどレンタルビデオに移行し、そして台湾のテレビから特撮ヒーローものがなくなってしまった。その後も(初期の)『太空戰士』のように、正義、愛、友情と平和の大切さを謳歌する番組はなかった。この点について、日本人を実にうらやましい。

最後に、この『太空戰士』の主題歌も見つけてきた(YouTubeって恐ろしいよね)。こんなに支離滅裂でも昔は韓国にも輸出したらしく、韓国語字幕がついている。逆に台湾ではソースを見つかりにくいのは不可解の限り。この主題歌は、台湾の特撮ファンの間ではネタとして非常に有名。なぜかというと、曲は『宇宙刑事ギャバン』そのままだから。歌は串田アキラさんと比べるとずっと劣るが、歌詞は戦隊モノにしては非常に本格的で、かなり秀逸だと思う。一応簡略に訳してみたので、興味のある方はどうぞ。


クリックしてYouTubeへ

*1:1998年、ビデオデッキの普及率は70%に達したに対し、レンタルビデオ屋は1600軒に減少。生活スタイルが全く変わっていたので、現在はもっと減っていたが、外資チェーン店がDVDレンタルを投入し、マーケットを着実に広げ、軒数が減っていても、全体的の売り上げは増えている。参考として、2006年現在全国の7−11が4000軒、本屋が1800軒。

*2:台湾テレビ(台視)、中国テレビ(中視)、中華テレビ(華視)3チャンネルしかない。ちなみに現在国内普及率90%を達したケーブルテレビのチャンネル数は平均70〜80もある。

*3:きちんと整理する店もあったらしいが。

*4:実際それまでも特撮映画が何本か作られていたが。

*5:放映終了日は1987年2月7日で全155話という説も。しかし台湾電視資料庫のデータによると、それは1986年8月3日から放映した、全く同名のアニメ番組と混同した可能性がある。ただ『太空戰士』というタイトルのアニメは本当にあるのか、私の身の回りでは誰も思い出せない。

*6:昔関連スレッドで、各話の話は『太陽戦隊サンバルカン』と酷似だと指摘された。放映当時八歳の私は、今になって話が全く思い出せないから、もう一回見ないとなんとも言えないが。

*7:このデザインは「ストーリーは『太陽戦隊サンバルカン』パクリ説」をさらに固また。

*8:1975年『秘密戦隊ゴレンジャー』から2006年『轟轟戦隊ボウケンジャー』まで。

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