《ブラックジャックによろしく》一気読み

ブラックジャックによろしく(1) (モーニング KC)
ムカつきましたね。少し。
斎藤英二郎は名門医学大学を卒業し、その大学の付属病院で研修医として医療現場に臨んだ。スーパーローテート式で病院の各科に研修に回る斎藤は、理想とかけ離れた現場に落胆し、担当医たちの理不尽な行動に翻弄され、苦悩しつつも懸命に日々を送っていた。「医者とは何か?」と彼は日本の医療に、そして自分に問う…。
「日本の医療現場の闇を暴く!」とドラマ化時でどっかで聞いたような気がしますが、はっきり言ってこの正義の味方をぶっている主人公に共感するどころが反感さえ持っています。おらぁこのにゃろうじゃおまえなんとかせいよな所が多く、主人公にからかわれた(煩わせた)医者たちに思わず同情してしまいました。
いや、漫画自体はすばらしいと思いますよ、主人公が嫌いだけです、本当に。医療現場で直面しざるをえない現実と、人の命を救うためにいる医者への理想との背反を巧みに描いています。登場人物のみならず、読み手でさえどっちも選べない立場に追い込まれる…これもなおさらその情けなさ、そして無力さを切なくアピールしているからすごいと思います。まったく絡みがないがタイトルにブラックジャックを入れる意味が滲んできます。漫画であろうか小説であろうかドラマであろうか、このような引き押しが利く作品は久々な感じがします(いや…それは君ここ三年間、新しいものに時間を割いて見ていないから)。
とにかく「矛盾」を読み手に向かっての突き出し方が上手で、見本になれるぐらいです。心理描写もうまく、所々に見かける、高橋ツトムの《地雷震》(なんと文庫化している…)や《スカイハイ》を想起させる微妙な筆タッチで描く、動作に表す感情の揺らぎもすばらしいです。最新刊の7巻はまだ読んでいません(それにしても、がん医療編は長いな…)が、主人公が嫌いだと言って読むのが止められる凡作ではありません。そういいながらも私はたぶん買って読み続けるんでしょう。
しかし、お話の中の医者たちが、良し悪しを差し置いて、みんな自分の信念をそれなりに身を持って実行しているのに対し、主人公だけがその場の刺激による感情変化に支配される一般論を散らかしている、という対比に見える私は主人公が嫌いになりました。特に5巻のに出てくる小児科医の安富先生は、主人公に「小児科医を続ける理由は?」と、まるで悪者扱いにした質問をされた瞬間を読んだ時は、心から不憫だと思いました。
と、その安富先生の答え「僕がやらなきゃ…誰がやるんですか…?」を読み、大好きな先輩で上司だったKを思い出しました。そういえば彼も同じようなことを私に言ったことがありますな。
よくよく思えば、低賃金で重労働、そして拘束時間が長く、よほど思い入れがなければ続けられないなど面からすれば、アニメ制作進行と研修医の本質はあまり変わらないかもしれません。絶えずに人と接し、人と人を繋ぐ(医者の場合は命をも繋ぎ)ために働く仕事は特に、「自分は何のためにこの仕事をやっているのか?」と常に己に問うチャンスも多いでしょう。そうそうにはない体験も発生しやすくでしょうが、それによって何かを掴める人と、ただただ受け流し、そして消えていなくなる人の差も、判りやすくなりますね…なんだか医療現場を無理やりアニメ制作現場にすり替え、《くろみちゃんによろしく》みたいなものを語り始めました。やだやだ。
話し戻りますが、だとすると、私も主人公と似たように、生意気でわかりきった正論しか言わんムカツクやつといった感じで、Kさんの目に映していたかもしれない!?…ううっ、深く反省していますので許してください。そしてがんばってね、Kさん。
一気読みシリーズ第一回でした。