初めての講演会


四月号の進行状況を考えると、実はそれどころではないが。
二ヶ月前、東海大学の講師の陳仲偉さんから、台中逢甲大学庶民文化研究中心が主催する、マンガ関係の講演会の講演講師として招かれた。
陳仲偉さんとは一回しか会ってないが、会話して生き別れの兄弟と思えた。まだ「マンガを読む子供が暴力の傾向を持つ比率」とか低レベルの研究が主流の台湾の学界では、宮台真司さんや清水勲さんの名前が出ても、説明なしで話が進める相手は、この陳仲偉さんが初めてだ。もともと医学関係の勉強をしていたらしく、マンガとアニメを愛するあまりに社会学に転がり、しまいに記号学まで手を出したツワモノである。そんな彼のお願いだから、快くOKしたとさ。
そしてとうとう講演会の時間は3月29日に決また。
テーマは私に任せるということなんだが、かなり悩んだ。何も語れるような、何も語ったことがないから(汗)とりあえず「認識漫畫的文體與文化(マンガの文体と文化を知ろう)」という当たり障りの無いテーマにした。「マンガは複合言語」と「マンガの文法」について語ろうと、細部は四月号の作業が終えたら考えようと思っていた。
なんと四月号の作業が終わらないまま、3月29日が来た。あうわああああああああ。
でも行かないわけにもいけないし、前日は白い4ページを残し、その他はゲラ出しへ。朝八時半台北から出発、十一時半台中に到着。その間に講演の構成を考える。雑誌の原稿を打ちながら陳さんと昼食、午後一時講演開始。とにかく慌しい。
場所は中型の教室で、来場人数は60〜70人ぐらい。前に関智一さんが台湾のイベントに来た時の舞台通訳をやったおかげで、そんなに驚かない*1。喋り出してから五分後は、むしろ楽しくなってきた…空白の4ページのことを忘れるぐらい。
講演内容が分かっているかどうかよりも、笑いが取れたかどうかに気にする私。日本人に生まれていたら落語家を目指すかもとこっそり思った。そして一時間半の寄席講演会が終え、質問を受けて40分。最後はなぜか来場者にサインと記念撮影を求められた。断る理由がないから一応受けたが、そんな写真はどう使うのだろうか。謎だ。
さて、講演が終わって午後三時四十分。陳さんと少し話をして、主催者から講演料を頂き、そして四時半過ぎまた台中を離れて台北へ。陳さんと夕食でも食べようと、三日間ぐらい前にはそんな妄想はしていたが、現実は厳しい。陳さんにはすごく申し訳ない感じ。
台北に戻った頃には、時計はもう七時に指していた。デザイン会社に電話して平謝り、待てくれと頼み込む…担当者はいい人なので「最後まで付き合うよ」といってくれたが、どこか最後なのか言えない自分が情けないと思った。はぁ。

*1:小さな舞台に囲んで300人以上はいるんじゃないかと思うが。大地丙太郎さんもいっしょ。最初から最後まで、一言でも言い間違えたら、下の女の子たちにバラバラにして殺されるような危機感が伴う、現時点の人生で最もドキドキな一時間だった。