なぜ緒方表紙を

いまさら10月号
ずいぶん前になったが、「なぜ手塚作品を」というエントリで、神戸生活もええでよサンからコメントで「どうして自国の書き手を使わず、緒方さんを表紙に使い続けるんだろう」と聞かれた。
これはですね、思い出すといつも悲しくなる訳があるんですよ。
一昨年の冬。台湾に戻り、雑誌の立ち上げの準備をしようとする時には、要領はそんなに得てなかったかもしれないが、ちゃんと台湾の出版業界の先輩方々にいろいろリサーチしてみた。
「台湾漫画と小説の若手を発掘し、育てる雑誌」というコンセプトを紹介したら、「政府の助成金を申請しないでやるのか?じゃ全然儲からないから*1やめろ」とか、「日本漫画を置かないの?えっ?手塚治虫ってだれ?そんな古い漫画なんて誰も読まないじゃない?」とか、「台湾人作家の枠を一人に絞って、そのほかには日本の漫画雑誌から持ってきた方がいい。理想ばかりじゃ飯は食えない」とか…しまいに「そんなのは金の無駄だから私に投資してください」という非常識なアドバイサー*2まで現れ、もうこれでいいと思いリサーチを止めた。これ以上台湾の出版業界に失望したくないのもあるが、どうせ誰も台湾の実状を把握できていないし、誰も漫画を「作った」ことがないし、そして他人事のように語る憶測や意見を、いちいちマジメに考えるのが、本当に疲れてきたから、もういい。*3
ただ一つ、とても引っかかった意見があった。
表紙を台湾人に描かせてみ。全員新人作家でしょう?出版社も小さいし、そんなの本屋にも置かしてもらえないんだよ。
そんなバカなと日本の方々は思うかもしれないが、私も当初半信半疑だった。しかし前例*4もあるので、その後取次ぎに聞いてみたら、「ええ、そうですね。日本人でもアメリカ人でも外国人であれば誰でもいいですから、表紙だけでも外国人に描かせた方がいいです。本屋との交渉がやりやすくなります。どうしても台湾作家の表紙で行くでしたら、仕入れできる冊数は少なくなるかも知れません。」
ここだけは譲らないと何も始まらないようだ。「…仕方ない、譲ろう」と観念したら、今度新しい問題が浮かび上がってきた。
誰でもいいと言われたが(そんなのできるかボケ!!)、誰にお願いすればいいのか?手塚作品を載ってるから手塚さんの絵を表紙に?いいや、それじゃ「手塚治虫マガジン」になってしまう。「挑戦者」だから島本先生に頼もうか…でも丁重に断われてしまった(残念T-T)
そこで思いついたのが、緒方剛志さんだった。直接で一緒に仕事したことはないけど、アニメ会社にいた頃には、一時期同じフロアだったのでよく顔を合わしてた。自分はもともと緒方さんの絵が好きで(特にあの暖かい色使いが好き)、また漫画と小説を共に居合わせた月刊挑戦者には、ライトノベルの表紙をたくさん手掛けてきた緒方さんの表紙なら、雰囲気もぴったり合うのではと。
ダメもとで頼んでみたら、緒方さんはなんと快く引き受けてくれた。これでやっと取次ぎが投げ込んできた爆弾を解除した。去年の一月末のことだった。
それから一年半の間、緒方さんは時間管理のずぼらな私に付き合い、さまざまなテーマに合わせ、台湾の風景や小道具などを織り交ぜ、いつもスピーディーでしっかりした表紙絵を描いてくれた。本当にありがとうございます。これからもよろしくお願い致します。
よって、最初は外在環境への妥協ではあるが、それでも雑誌の性格をよく考えた末に決めた緒方表紙なので、編集方針の変更がない限り、表紙作家は変えないつもりだ。その代わり年に四回、誌上作家カラーイラスト競作特集を組む。いつか彼らの絵が、表紙に飾れる日が来るのを信じて。

*1:政府から助成金をもらい、それより少ないコストを使って雑誌を作れば、その差額が儲ける、という考え方。実際、助成金をもらってやっている二冊の雑誌は、作家への原稿料を削りその差額が出るように仕組む噂(ページ単価はうちの新人の原稿料の半分や七割しかないから、そういう噂が出てきたらしい)。

*2:って、こいつは台湾で「漫画評論家」という肩書きで、台湾の大学を中心に漫画アニメ関係サークルに招かれたり、講演したりしているけどね。

*3:ここら辺は完全に愚痴:手塚プロ講談社と交渉した時に、外国人である日本の方々からは「難しいけどがんばってね、何か手伝うことがあれば言ってくださいね」という暖かな言葉までもらえたのに、同じ台湾人で出版人なのに、お前らのその態度はなんなんだ!?別に何かをしてほしいとかは全然望んでいないが、「やめろ」「無駄だ」と連発してて何様のつもりだ…だから大人が嫌いなんだよ。ええっ、悪ガキです。

*4:四・五年前、台湾製のゲームなのに、パッケージイラストだけ日本の作家にお願いするケースがいくつもあった。原因というと台湾製ゲームはこうもしないと、店では棚に置かせてもらえないらしい。