台湾の新人賞からいろいろと

仕事が詰まっているので現実逃避しよう。
先月から、誌上で《從新人獎看漫畫(新人賞から漫画を読もう)》という期間限定特別企画が始まった*1。ここ三十年の台湾漫画史というと、かなり寸断な過去があるので*2、雑誌や作家中心で整理しても、どうもしっくり来ない。(2005年現在)過去に叱咤した40代の漫画家はほとんど中国へ逃げた*330代の中堅漫画家がいない。20代の漫画家はうちの雑誌に集中。このバランスの悪さはもうオカシイの領域。ある日、雑談の中で「もしかして新人賞の方がよっぽと時代の流れが掴める」だと閃き、ちょうど新人賞に詳しい人も快く手を上げてくれたので、この企画が生まれた。
新人漫画家は次々と生まれて来なかったが、漫画新人賞は一時期を除いて、各出版社が毎年続けてやっていた。

表からわかるように、台湾の新人賞って本当に少ない。しかもよく見ると、日本の新人賞のように、基本は雑誌に付属し、その雑誌を担う将来の戦力を探すための新人賞というのは、実は一つもないんだ。そう、台湾の漫画新人賞は取ってどうなるモノではない。優勝取っても編集がつかない、漫画家になれない賞、つまり「良くできましたで賞」みたいなモノが多い。賞金を支払ってハイさよなら、仕事探す時には履歴書に書けるからね!という具合。即戦力になれそうな、飛び抜けな画力がなければ*4、出版社は新人の面倒を見る意欲がないから(もしかして能力もないかも)。そして投稿する方も、(それに合わせて?)いつしか賞金ハンターみたいな感覚になり、何回も同じ賞に応募する。「新人賞」なのに、前回の優勝や佳作を獲得した人が、何回もまた再登場するのがよく見かけるという、奇怪な状況になる。今これは漫画新人賞だけではなく、文学賞も時々似たような傾向が見られる。
1984〜1989年の間の新人賞は二回しかないが、その優勝や佳作を取った者たちは、その前の小咪漫畫時期でデビューした少女漫画系の漫画家と一緒に、1986〜1989年ぐらいには目ざましい活躍をして、今でも「漫画家」として知名度が高い。しかし、その時期以後で出てきた人は、ほとんど読者に覚えられずに消えた。なぜかというと、その後の1991〜1996年は、海賊版の消滅とともに、1988年以来の日本漫画ブームが更にヒートアップし、台湾漫画も火付けられた。雑誌と新人賞が乱立し、画力だけ買われたアニメーター*5が次々と(新人賞も通さずに)漫画家として連載し、鳥山明北条司池上遼一のパクリさえも普通に週刊誌や月刊誌に見かける*6。このような波に乗って売れりゃなんでもいいという、実は一つの文化にとって非常に消耗的なやり方を、恐ろしく(金儲けの一心で)積極的に施行されてきた。なのに何年も立たないうちに、スラムダンクの連載終了=漫画ブームの沈静化がやってきて、ここぞという時にはとても太刀打ちができず、あえなく破滅な道を歩まざるを得なかった結末に。無謀な大長編連載は尻きりトンボになり、原稿料や契約のことで出版社と漫画家の対立をあらわにしたなど、一連の不様な動きは、その時期にデビューした何人かの有望な作家を潰して、長年台湾漫画を支持する読者たちの心に大きな傷を残した。
そして、「台湾漫画」は最悪だというレッテルが貼られ、読者に捨てられた。そしてついに「台湾人が描いた」ということだけで、内容も見ずに「ダメ漫画だ」と言い捨てられるまでに成り下がった。その時点でこのような理不尽のバッシングに対抗しようとして奮起する漫画家や出版社が少なさ過ぎるのも、事態を悪化させた大きな原因であろう。
うちの雑誌はペンネームを日本名にしてる人がいる。その人によると、同人誌を本名で発表した時には誰も見向きをしてくれないのに、ペンネームを日本名にしただけで、500冊も完売したと*7。厳しい環境に立ち向かうプロ漫画家たちの漫画には読みもしないでつまらないと断言しながら、日本の雑誌投稿欄にイラストが載せられた同人作家の方に憧れる子も増えてきた*8。日本の雑誌を買って日本まで投稿し、日本語もままにならないのに日本へ行って漫画家になりたいとか、10代においての自国文化及びそれへの自信の喪失が大変目立ってきている。しかも自覚がない。おそろしいことだ。何とか食い止めなければ…と思うが、まだまだ力が足りないようだ。

*1:その作者「館林見晴」の正体について。実は漫画《飛行倶楽部》の作者林迺晴と私の合同ペンネーム…(汗)最初はうちの編集部で新人賞にもっとも詳しい彼一人でやる予定だが、ちょっと読み物として物足りなかったので、私も入って手伝うことになった。そしてふざけて言ってしまったそのキャラ名がそのままペンネームに。

*2:台湾漫画中心の雑誌が続かない。潰れてまた立ち上げ、時代に続く骨のある雑誌もない。よって変遷がはっきり見えない。

*3:台湾の読者は長年日本漫画に慣れさせたため、中国の読者より目はずっと肥えている。このような肥えた目を満足させられない、しまいに叩かれるのがイヤになった漫画家達は、中国へ飛ぶ。中国にも海賊版とかでひどい問題があるけど、10万人に1人一冊買ってくれたら6万冊は売れる。そうりゃ確か台湾漫画家だと出版社も取次ぎも本屋もまず売れないと判断され、初版6千冊も刷ってくれない台湾よりずっと魅力的に感じるんだろう。

*4:台湾のこのような賞は、どうも構成力や独創性よりも画力の方を見る。というより、画力だけを見ているようだ。

*5:といっても安賃金が我慢できない動画マンや二原ばかりだが。

*6:でも今思うと、ある意味いい時代だった。

*7:台湾の即売会では超大手レベルの数字。特にこの人の本は単価も高いから、これで二、三ヶ月暮らせるぐらい。ただこの人の同人誌は正直な話とても読みにくい。

*8:要は「日本人に取り上げられないと偉くない」意識。本当は自分で良し悪しの判断ができないから、とりあえず(自分の優位を誇示しようとして)まず全否定してみたりする。憧れの日本(人)がいいと言ってくれたら、とりあえず(自分も同じセンス持っていると示すため)いいと言ってみたりする。やれやれ。